医学部受験に挑戦する生徒は通常どこかの塾に通っていますが、実際、医学部に合格できる生徒はそれほど多くありません。高校で早くから塾に通っている人でも医学部に合格できないのはなぜでしょうか。原因は人によって様々ありますが、重要な問題として学校・塾など、各学習を自分で能動的に取り組めていない事によってそれぞれがうまく消化されないということがあげられます。今回は高校生の学習において気をつけたいポイントを紹介したいと思います。
キズは小さいうちフォローする
最初の授業のときに、新たに学ぶ公式や概念をすべて理解仕切ることはできません。学習を進めていくとどうしても腑に落ちない部分は生じてしまうものです。そんなとき、しっかりとフォローはできていますか?学校のテストを乗り切るためだけにとりあえず解法の暗記で済ましていませんか?学校のテストはごまかせても医学部受験ではそのような小手先は通用しません。
手当は早いほうが少ない労力で済みますが、逆に時間が経ってからだと1からやり直さなければならないので大がかりになり、それが二重三重に積み重なると「苦手」な分野になってしまいます。
また、次に学習する単元は少なからず過去の単元を引き継いでいるので、そうした弱点は次の単元の理解を妨げます。そして入試まで引きずってしまったら痛い結果になってしまします。もともとはそう大きい話ではないので、早いうちに芽を摘んでしまいましょう!
医学部入試は強いところを伸ばすのではなく、弱いところをなくすことが合格の必要条件です。
本質を掴む
ある分野を習うとき、その仕組みを理解してから問題演習に入ってますか? 例えば物理の力学なら、力学の全体構造をみてから習わないと、なんのためにエネルギーや運動量の保存則を使うのかはっきりしないし、化学を習うときも「電子のやりとり」という観点がないと、各分野がバラバラのまま、言われたことだけしている、ということになり、いずれ有機化学でひたすら暗記で乗り切らなければならないハメに陥ります。数学も然り。微分は直線近似の発想がなければ、応用が効きません。
各分野にはそれを考えたおおもとの発想というものがあります。所詮、人間の打ち立てた理論ですから。それをおさえたうえで各分野を見ていけばスッキリと理解できてきますし、応用もラクにできるようになります。まずはどういうわけでこういうことを考えたのかを理解してから取り組んでいきましょう。
苦し紛れの解法暗記は、当然ですが応用力が身につかず、少しパターンを変えられるだけで対応不能になってしまします。医学部の問題はそのようなそもそもの「本質」を理解できているかを問う問題がよく出題されます。何も医学部だからといって、複雑怪奇な問題を解かなければならないことは全くなく、こうした「本質」をおさえているだけで本当はかなり解けてしまうものです。こうした問題は理解していれば苦労なく解答できますが、暗記の学習に頼っている方は全く得点できません。
共通テストも、本質の理解を前提としたうえで応用できるかを問う形式となっています。大学受験全体として、ますます小手先でない「本質」の理解が重視されています。目先のテストに焦って暗記に走らず、新しく習った公式の思想・前提条件・導き方など深いレベルで理解するよう努めましょう。
単元ごとのつながりを意識する
これが学力の早期完成に最も重要なことなのですが、ある単元を習ったとき、他の単元とのつながりを常に意識することが大切です。例えば初めて複素数を習ったときに、その足し算が実部と虚部とで別々なところに気付けばベクトルとつながりますし、それを平面上の点とみれば複素数平面の概念を先取りすることができます。よく出てくるωも意味が理解しやすいはずです。
習ったことをもとに既習分野を見直したり、先取りを少しでも行うことができれば、その後の学習の理解度が大きく異なってきますし、実践的な問題を考える上ではこれは必須の能力になります。
別解を考えるクセをつける
先ほどのとつながるのですが、一つの問題対してさまざまなアプローチを考える習慣をつけると、学力は大きく伸びます。いろんな角度から見るので、問題に対して柔軟に対応することができますし、計算ミス等で行き詰まったときでも、別解で切り抜けるとことができます。
例えば数学では一見2次方程式の問題でも、ベクトルや三角関数などで解を導くことができる場合が多々あり、そちらのほうが案外早く解を導けることがあります。また、多くの引き出しを持っておくことで入試土壇場において、一つがだめでもいくつかの選択肢の中から有効なものを選べるようになります。これは正答を導く点においても、解答の速度の面においても非常に有利になります。
ただ別解を多く考える能力は一朝一夕にはつかないものですので、日頃から他の手段を考える習慣づけを行うことが大切です。
日常生活のあたりまえを見つめなおすようにする
入試問題等の設問は、作問者が題材を考えて問題を作り上げていくのですが、その前提に結構身近な内容から取ってくる場合が多いです。理科に典型的に現れますが、数学でもよく行います。以前、大学入試の問題を依頼されたときも、身近なことから引っ張って作問していきました。
特に共通テストではその傾向が顕著です。そもそもの出題方針がそうなっています。年がら年中考えろというわけではありませんが、日常のちょっとしたことを「なんで?」と見ていくクセをつけていくと、取り組みやすくなってきます。
学校の時間をムダにしない
医学部を目指す生徒の通常の学習パターンが、「学校と塾」だと思います。しかし残念ながら、学校をおろそかにしている方が非常に多いように感じます。学習のメインは塾だといって、学校では塾の宿題をしていたり、そもそも学校の授業を聞いていなかったり。それは非常にもったいないことです。
学校は、学習において最も理想的な時間帯(朝−昼)を専有し、綿密なカリキュラムのもと授業が行われています。その授業をおろそかにしたままで医学部を目指すのは大きなハンデを自ら課しているのと同じことです。
重要なことは、学校と塾でそれぞれ目的を明確に持って学習を行うことです。例えば、学校では各単元の基礎をしっかりと理解し、塾では演習を行うなど。しっかりと学習の棲み分けを行ってムダのない自分だけの学習システムを構築することが必要です。
長期的な見通しを持って学習を行う
医学部受験に特別な学習法が必要だということは全くありません。他の学部と全く同じ試験範囲で高校の学習が問われる試験です。しかしながら、最難関たる所以として、その中でも最も高い完成度が求められます。
医学部受験のレベルには、ただなんとなく学習をしているだけでは到達できません。戦略的に学習を組み立てる必要があります。
自身の入試まであと何年と何ヶ月あるか、考えてみてください。その時間の中で、どの科目をどれだけやらないといけないか。学校のカリキュラムではどのような進度で学習が進んでいくのか。問題集はいつまでにどのレベルで仕上げるのか。
かなり綿密にかつ具体的に学習をこなしていかなければ医学部レベルに最短で到達することはできません。また、先にも述べたように学習を進めていけば必ず苦手分野や弱点が生じてしまうものです。それらをどのように補完していくのかを計算に入れることも重要です。
中学生の方へ
中学の学習内容は高校への導入
中学の学習内容は、簡単にいうと高校の学習内容の導入のような位置づけです。したがって、高校で習う範囲は中学の内容をオーバーラップしているところが多いです。ですので中学の時例えば理科ができなかったとしても、高校で物理や化学、生物を習うときはそのとき学び直すことができるのでさほど問題にはならないでしょう。
しかし、これだけはどうしても中学の学習で身に付けておいてほしいというものがあります。それは、「計算力」と「図形」です。
計算力を鍛える
計算力とは計算のスピードと正確さです。小学校での計算と異なり、中学以降では文字の計算が主流になります。連立方程式など式も複数出てきます。高校になれば、logやsin, cos, 微分積分など、さらに複雑になってきますし、物理選択者はほとんど文字だらけの方程式を変形しなければなりません。(そちらのほうが楽なのですが、、、)中学生のうちに高い計算力を身に着けておくことが非常に重要です。
中学受験を経験された方々はこの計算力が馬鹿にならないことがおわかりかと思います。また、計算力は、試験で絶対に必要な能力ですが、それだけではありません。計算力は普段の学習も効率化してくれます。自習がスムーズに取り組めない方に多いのが、計算が遅い人や計算が合わなくて何度も何度もムダなやり直しを繰り返している人です。
計算力があると、予習・復習・自習もテキパキとこなすことができ、学習に弾みをつけ、結果が学習にも意欲的に取り組めるようになります。
数学の「図形」の範囲は特に真剣に取り組む
中学の数学における「図形」の範囲は、中学受験経験者は弱くなる傾向にあります。逆に高校受験を経験した方はガッツリと取り組んでいますので、非常に得意としています。
「図形」は大学受験においても出題されるかなり重要な範囲ですが、高校ではさらっと流されてしまいます。このため、中高一貫校では、受験直前になっても苦手としている方が多くいますが、これは非常にもったいないことです。
「図形」は非常に応用が効く範囲で、高校の三角関数、座標平面の問題、微分積分などあらゆる分野で「図形」として問題を解けば非常に簡単に解けてしまうことがあります。また、物理に関しても同じことが言えます。
このように「図形」は大学受験で非常に重要な範囲であるにもかかわらず、高校ではあまり深堀りされない範囲ですので、中学の間にやりきっておきましょう。
最後に
繰り返しですが、医学部受験の難しさの原因は求められる完成度の高さです。弱点分野を作らないことが非常に重要です。そのためにも今一度、自分の学習の状況をシステムと言う面で考えてみてはいかがでしょうか。
- 学校ではどんなことを習得し、塾ではどんなことを学んでいますか?
- どちらかに頼りきりで、無駄になっている学習はありませんか?
- すべての学習時間が自身の実力向上のために使われていますか?
- 弱点が生じたとき、過去の単元をやり直す機会は用意されていますか?
システムとして、学習の計画と日々のサイクルが噛み合って機能していなければ、せっかくの努力が空回ってしまいます。あなたの努力が合格へ向うよう調整してみてください。
医学部入試は高レベルの戦いで修得すべき分量も多いので、時間がいくらあっても足らないのが通常です。自分の今のやり方で大丈夫なのか疑問や不安のある方は、匿名でも結構ですので、画面にあらわれてるチャットやメール、SNS等で遠慮なくぶつけてみてください。少しでもお役にたてればと思います。